はじめに

私がコンピュータの仕事を始めてから30年近くなります。私が仕事を始めた頃はコンピュータのエンジニアのことを、ユーザの方から「電算さん」と呼ばれたことがありました。

確かにコンピュータを日本語で訳すと電子計算機になります。ただコンピュータの多くがパソコンになっている今になると、電子計算機といい方がものすごく時代を感じます。

一口にコンピュータといっても大きく4種類に分けられます。

一つ目は汎用コンピュータです。私も最初に仕事をはじめたときは汎用コンピュータを使っていました。昭和の時代はコンピュータといえば汎用コンピュータのことを指していました。汎用コンピュータは事務計算が得意で、銀行などの金融機関や公官庁や大企業の業務システムにいまだに使われています。ただ汎用コンピュータは閉ざされたシステムのためオープンシステム化の流れの中で、徐々にシェアを落としてきています。PCの陰に隠れて目立たない存在になっています。

二つ目はスーパーコンピュータです。世界一になるとかならないとかで騒がれた「京」はスーパーコンピュータです。スーパーコンピュータは科学技術計算に用いられて、計算速度の速さが命です。開発費用がものすごくかかるため、汎用コンピュータより高額です。一般企業でも使われることがなく、研究所や気象庁など特殊な用途でしか使われません。ただ世界一になる意味は実はなかったりします。

三つ目はPCです。現在コンピュータといえばPCのことを指すほど、多くの人が使っています。PCが他のコンピュータに比べて圧倒的に安く、家電量販店で手軽に変えます。今は一家に一台以上あり、オフィスでは一人一台というくらい身近な存在です。ただPCはコンピュータであって家電製品ではありません。使いこなすにはある程度の知識が必要です。

四つ目はサーバです。サーバはPCと部品が共通でPCに非常に近いですが、PCと違って同時アクセス・セキュリティ対策・24時間稼働などが重点がおかれて作られています。インターネットでWEBサイトをアクセスするときには、PCから必ずWEBサーバというコンピュータにアクセスします。PCよりも専門知識が必要で、現在のコンピュータの専門家が一番仕事でお世話になるのがサーバです。

簡単に書くつもりが長くなってしまいました。これでも書き足りないので、各コンピュータの章でくわしく書くことにします。

汎用コンピュータ

汎用コンピュータ

汎用コンピュータはメインフレームとも呼ばれ、大企業の業務システムに利用される大型コンピュータです。現在でも日本では銀行の勘定系システムや各省庁のシステムなどで使われています。

海外では汎用コンピュータのメーカはIBMが主で他に2社が存在するだけですが、日本では富士通・日立・NECと3社も存在します。日本ではいまだに汎用コンピュータが幅を利かせて、富士通・日立・NECの利益に大きく貢献しています。

なお、富士通と日立の汎用コンピュータはIBM互換機と呼ばれ、IBMのアーキテクチャーがベースになっています。実は私はIBMの汎用コンピュータは少ししか触ったことがなく、富士通や日立は全く触ったことがありません。

私が仕事をしていたのはNECのACOS-6という汎用コンピュータで、ゼネラルエレクトリック社が開発したコンピュータの流れをくむものです。ACOS-6はワードマシンという独自の考え方をしていて、IBM系の汎用コンピュータとはまったく世界が違っていました。そのためACOS-6のSEは転職できないとよく言われたものです。

ただ今となって私は当時主流だったIBM系でなくACOS-6でよかったと思っています。ACOS-6は汎用コンピュータでありながら、半角英数はASCIIコードで、漢字はJISコードでした。PCやUNIXの文字コードはASCIIコードなので違和感がまったくありませんでした。IBM系の汎用コンピュータは、半角英数がEBCDICコードで、漢字に至ってはIBMがIBM漢字で富士通がJEF漢字で日立がKEIS漢字とメーカごとにバラバラなのです。

日本ではいまだに汎用コンピュータがたくさん存在しています。これは世界でも非常に珍しいです。何故かというと汎用コンピュータのメーカと技術者は非常に視野が狭くて新しいことを嫌います。そのため一度作り上げたシステムの手直しはするが、抜本的な見直しはしないのです。これは日本の官僚や金融機関が一度自分たちで作ったシステムを守り続けるという体質と相通じるものがあるせいか、今でも日本には多く存在して、多くの税金が投入されているのが現実です。個人的に汎用コンピュータの体質は原子力発電所と非常に似ていると思っています。

私は汎用コンピュータで最初に育ったので、汎用コンピュータを完全に否定する気はありません。ただ、時代とともに時代のニーズに伴って役割を変えていっていただきたいと思っています。

アメリカではIBM→マイクロソフト→google→facebookとITのトレンド企業が新しくなっています。日本では30年以上前からNTTデータ・富士通・日立・NECとまったく変わっていません。日本はITに関しては昭和の時代の体質がそのまま残っているのです。

スーパーコンピュータ

スーパーコンピュータ

スーパーコンピュータは主に複雑な計算が必要になる処理に使われるコンピュータです。スーパーコンピュータが使われている代表的なものとして気象庁の天気予報や津波到達などがあります。そのほかに防衛庁システムや研究所のシュミレーションなどにも使われます。

一時事業仕分けで蓮舫が「世界一ではなく二番ではだめですか」の言葉が話題になった「京」というコンピュータはスーパコンピュータなのです。スーパーコンピュータが世界一の性能になることには実は何の意味もありません。世界一の性能をどのように活用されるかが重要なのです。

福島の原発事故で放射能拡散予測のSPEEDIというシステムがありますが、このシステムは巨額な開発費用をかけて作られて、スーパーコンピュータの性能を生かし放射能の拡散予測をしましたが、結局SPEEDIの結果はすぐには公表されず隠されて、多くの人が年間1ミリシーベルト以上の被爆してしまいました。巨額の必要で開発されたSPEEDIとスーパーコンピュータが国民のために生かされなかった典型的な例です。このような政府の体制では、世界一のコンピュータを作り続けるために多額の予算が付けられる意味はまったくありません。

しかも「京」というスーパーコンピュータは今話題の理化学研究所が開発に関与しています。それを聞いただけで胡散臭さ爆発です。

私はスーパーコンピュータの存在自体は肯定しています。多くのデータを瞬時に計算して結果を出す必要は感じています。ただ適正な予算で適正な組織が国民のために携わってほしいものです。

海外では日本と違って汎用コンピュータやスーパーコンピュータよりも多くの人が利用するサーバに人力とコストを費やしています。日本は非常に特殊なのです。

何かスーパコンピュータに対してネガティブな意見を書きましたが、スーパコンピュータにかけるコストの一部をサーバやセキュリティにまわさないとコンピュータの後進国になってしまいます。

PC・パソコン

PC

PCは一般家庭や企業や学校にも普及して、家電製品でもっともポピューラなテレビよりもはるかに出荷台数が多くなっています。最近急激に普及しているダブレット端末やスマートフォンもほとんどPCと同じといってもいいのです。

PCが他の家電と違うのは部品が簡単に入手ができて自分で作ることができるのです。逆を言えば富士通・NEC・東芝などのメーカのPCも中身の部品はあまり変わらないのです。極端な話、ドスパラやフロンティアなどのショップブランドの安価なPCも同じ部品を使っていたりします。逆に高性能の部品を指定すれば、ショップブランドのPCの方が安くて高性能で、国産メーカのPCの方が価格が高くて性能が低いケースもざらにあります。

PCの価格は部品の価格が決まっているので極端に高くも安くもできないのです。一流メーカのPCが高いのは、初心者向けのツールと、初心者向けのサポート窓口のサービス料金が含まれているからです。PCに詳しい人間にはそのようなツールやサービスが要らないので国産メーカのPCを買わないのです。

PCも20年前はデスクトップタイプが主流でしたが、今はノートタイプが主流です。これからはタブレットタイプがさらに普及し、携帯電話の大多数はスマートフォンになるでしょう。これからはデザインやプログラム開発などプロが使う場合はデスクトップタイプ、会社や個人が入力作業に使う場合はノートタイプ、外出先で使う場合はタブレットタイプと状況に応じて使い分ける時代です。臨機応変さがPCを使いこなすキーワードなのです。

サーバコンピュータ

サーバ

サーバとはPCから常にアクセスが可能な状態でなければいけないコンピュータです。でもサーバといってもPCの部品と互換性があるため、汎用コンピュータやスーパコンピュータのような特殊なものではありません。でもサーバはネットワーク社会において必要不可欠なコンピュータです。例えば、GoogleやYAHOOのような検索サイトが利用できなかったらきっと混乱します。メールサーバが止まると仕事にも影響します。サーバは利用者がいる限り決して停止してはいけないコンピュータなのです。

とはいえサーバはPCと非常に似たコンピュータです。サーバが常時稼働するためにクラスタ化や仮想化など様々な技術が取り入れられています。負荷分散をするネットワーク機器も使われています。海外ではサーバとサーバ関連のネットワークに技術開発に力を注いていますが、日本では海外の技術をそのまま使っているのが現状です。実は日本はIT先進国ではなくIT後進国なのです。

日本は新しい技術に対して寛容ではなくて、少しでもバグがあれば拒絶します。サーバやネットワークの新しい技術にはバグがつきものです。海外ではバグを修正しながら改良してよい技術を作り上げるのです。

またサーバやネットワークの世界では英語がベースになっています。日本人の技術者は英語に対して苦手意識があります。新しい仕組みへの寛容性のなさと英語が苦手なことが、サーバやネットワークの世界で日本が後れを取っている原因です。

日本の国民性を考えると無理にサーバやネットワークで先進国になることはないと思います。むしろ日本人が得意とする個人向けのきめ細やかなサービスを、サーバやネットワークの分野でも展開すべきです。個人向けの新しいITサービスを提供できる自由な場を作り、公の組織はサービス提供者の規制をするのではなく、サービス利用者が損害を与えるような提供者を排除し、サービス利用者を守る仕組みを作っていただければよいと考えています。